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国際金融のトリレンマ

国際金融のトリレンマ(こくさいきんゆうのトリレンマ)とは、国際金融政策において、3つの政策を同時に実現することができないことを言います。その3つの政策は、同時に実現することができず、同時に2つしか実現できません。先ず一つ目は、『為替の安定(固定相場制)』、二つ目は、『独立した金融政策』、最後に三つ目は、『自由な資本移動』となります。固定相場制で、自由な資本移動を実現すると、固定相場の対象としている国の金融政策に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなります。逆に、固定相場制で独立した金融政策を実現すると、自国の金融政策を拘束することになる外国との自由な資本移動は行えなくなります。したがって先進国では、独立した金融政策と、自由な資本移動を実現するために固定相場制を放棄することとなっていました。たとえば、中国においては「為替の安定(管理フロート制)」、「中央銀行(中国人民銀行)による金融政策の自由度」を確保するかわりに、外国との資本移動に制限を加えてきました。日本や米国では「自由な資本移動」と「中銀(日本銀行・FRB)による独立した金融政策」のかわりに、為替の安定を表向き放棄しています(変動為替相場制)。一方、EU(ユーロ圏)においては「資本移動(国境・関税などの経済的障壁の撤廃)」と「単一通貨(ユーロ)の流通(複数国による固定相場制導入と事実上同義)」を両立させていますが、金融政策は欧州中央銀行(ECB)に握られており、加盟各国が個別の政策を採ることはできません。しかし、景気対策の手段として、有効な金融政策の柔軟性を放棄するのは得策ではなく、また経済のグローバル化が進む今日、資本移動を制限するのも現実的ではありません。よって先進国においては、3要素の中で、最も重要性の低い為替安定を断念する流れが比較的強まっています(ただし変動相場を採用しても、為替介入を行って事実上の為替安定を維持しようと動く国も多いです)。実際、中央銀行がなく各国で独自の金融政策がとれないユーロ圏諸国では、自国の景気対策のために金融的手段を用いることができず、専ら政府による財政出動に頼らざるをえないため、2008年のリーマン・ショック以降の世界的な景気後退に対して特に欧州諸国の財政が急激に悪化しました。ギリシャ経済危機をはじめとする南欧各国の経済危機を招き、ユーロ自体の信認も低下する事態となったのです。一方、中国も国外資本の流入促進を加速させるため、人民元の国際化を進めざるを得ず、中国人民銀行は2005年に管理フロート・通貨バスケット制への移行を表明しました。2007年からは、人民元を対ドルレート変動を前日比0.5%に制限しつつ、容認する方針に変換し、これは事実上の、変動相場制への移行と受け止められました。ただし、その後も急激な元高を嫌う中国当局は、対ドルレートの維持を目的に莫大な米国債の購入などによる為替介入を続けたため、外貨準備が急激に膨張しました。2006年には、日本(8,500億ドル)を超えて外貨準備額が世界一となります。その後も膨張を続け、2011年には3.2兆ドルもの巨額に達し、人民銀行の周小川総裁が懸念を表明するなど、為替安定を維持するのが困難となっています。

固定相場制の落し穴

ユーロ危機と国際金融のトリレンマ

通貨と国際金融の問題を考えてみます。2010-11年に生じた欧州政府債務問題に遡ります。発端は、ギリシャなどの南欧諸国における政府債務比率が、通貨統合の条件を大幅に上回り、国債利回りが急騰(価格は暴落)したことです。国債発行による財政資金の調達が困難な状況になりました。そのため財政危機に陥った国々は、過酷な財政緊縮を迫られたり、ユーロからの離脱の可能性さえも指摘されるに至りました。ユーロ危機は、南欧諸国だけにとどまらず、フランスやドイツなどの欧州中心国による財政支援の拡大、南欧諸国の国債を保有する銀行の資本不足などに飛び火し、深刻な影響を与えたのです。そのユーロ危機の震源地である南欧諸国等には、ギリシャやイタリアといった政府債務の問題を抱えた国と、スペイン、ポルトガル、アイルランドといった住宅バブル崩壊に直面した国がありました。なぜ政府債務が累増していったのか、なぜ住宅バブルは発生したのか。通貨ユーロの構造がもたらした課題について考えると、「国際金融のトリレンマ」の問題に直面します。国際金融のトリレンマとは前途でも説明した通り、①為替相場の安定、②独立した金融政策、③自由な資本移動、これら3つの政策目標に対して、同時にすべての目標を達成することができない、というものです。どういうことかと言いますと、分かりやすく説明いたします。③「自由な資本移動」であれば、金利差に伴って為替相場は変動します。そのため、①「為替相場の安定(固定相場制)」を維持しようとすれば、金利水準を相手国に合わせる必要があり、②「独立した金融政策」は奪われることになります。①「為替相場の安定(固定相場制)」を維持しながら、②「独立した金融政策」を確保するならば、③「自由な資本移動」を規制する必要があります。また他国に②「独立した金融政策」と、③「自由な資本移動」を認めれば、①「為替相場の安定(固定相場制)」は維持できないことになります。このように、国際金融のトリレンマの命題では同時に3つの政策目標を実現することはできないことがわかります。

ユーロ参加国における国際金融のトリレンマ

ユーロ参加国の立場から考えてみると、通貨ユーロは、3つの政策目標のうち、どのような政策を選択したのでしょうか。①自国通貨はユーロに統合されたわけですが、これは自国通貨とユーロとの固定相場制にあることを意味します。②自国の金融政策は放棄し、ECBの政策金利に統一しています。③資本取引は自由です。欧州をひとつの市場として捉え、財・サービスだけでなく、資本取引も自由です。つまり、ユーロ参加国にとって、国際金融のトリレンマにおける選択は、①固定相場制、②金融政策の独立性の放棄、③自由な資本移動の組み合わせとなったわけです。ここで問題となるのは、ECBによる金融政策が、参加国のファンダメンタルズに適応した運営となるのかどうかです。主要国のドイツに合わせた金融政策では、他の欧州諸国にとっては、政策金利が低すぎたり、高すぎたりする可能性があるわけです。例として、経済ファンダメンタルズとして重要な「消費者物価」について、ユーロ発足時の1999年1月からユーロ圏全体とギリシャのインフレ率を見てみます。ユーロ圏全体ではインフレ率は抑制されており、ECBはそれに応じた政策運営を行ってきました。一方、ギリシャのインフレ率をみると、ユーロ圏全体よりも高い状態が長らく続いてきました。これはギリシャだけではなく、スペイン等でも同様にインフレ率は高い傾向にありました。このことは、ギリシャやスペイン等にとっては、ECBの政策金利は低すぎることを示しており、資金調達コストが低くなり、財政や住宅ローンの負担が軽くなり、財政規律の低下や住宅バブルの発生余地が生まれやすいのです。実際に、ギリシャでは財政赤字の削減が遅れたり、スペインでは住宅価格の高騰とその後の下落から、経済は苦境に陥っています。このように、ユーロ危機の根源には、国際金融のトリレンマの問題があったわけです。ユーロそのものは、外国為替市場において、たとえば米ドルや日本円などに対して、変動相場制にあり、ECB(欧州中央銀行)による独立した金融政策を行い、欧州域内外での資本取引は自由です。これらの組み合わせは、日本円や米国ドルと同様な選択だといえます。

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